何にもないお休みの日、ぽかぽかと柔らかな陽がカーテンの隙間から差し込んでいた。 惰眠を弄る様に、わたしはお布団に潜り、隣にいる彼に擦り寄ればおいでというように腕を開いてくれる。 ゆっくりとそこに潜り込めば、言いようのない安心感があった。 におくん、におくんと胸元でもごもごいえば なんじゃ、とやわらかい返事が返ってくる。 やさしい声音に、温かい体温に、口元がゆるむ。 におくん、すきだよ。と心の中でつぶやけば、まるでそれが口から出てたかの様に、 すきじゃよって返ってくるから、 驚いて顔をあげればしてやったりと言わんばかりの顔がある。ずるいずるい。彼はなんでもわかってしまうから、ずるい。 「わたしの言いたいこと、なんでわかったの?」 「ちゃんのことはなんでもわかるき」 なんて、余裕綽綽な顔で笑うけどそれは後輩くんや丸井くんに向けるものよりもとてもやさしい。 ぎゅうと抱きしめれば、ぽんぽんと頭を撫でてくれてわたしはじわじわと幸せに満たされていく。 気づくと二度寝をしていて、隣にいたはずの彼はいなくて、ぼんやりと狭い部屋を見回す。 探し者は案外早く見つかって、ゆるゆるとはためくカーテンの向こうで紫煙をふわりと弄んでいた。 ふわふわと法則無く漂う白い煙が、きらきら輝く彼の銀の髪と相まって不思議なものに見える。 その姿を見ていたら彼がこちらに気付いておいでおいでと手招く。 わたしは引き寄せられる様にベランダの戸を開けて、あくびを噛み殺しながら彼の隣に並んだ。 ふわりと温かな空気に混じって煙の匂いと秋の匂いがした。 「おはようさん」 「おはよう、いいにおいがするね」 「おなかすいたんか?」 「ちがいますー。」 意地悪な彼がけらけらと笑えばわたしもつられて笑った。 その顔は意地悪だけどやっぱりどこかやさしいくて、じんわりと心臓が暖かくなる。 「散歩ついでにどこかいこうかのう」 「いいね。そうしよう」 短くなったタバコを消して、2人で部屋に入るとお互いのんびりと準備を始めた。 じりじりと焼けつく様な陽が少しずつ柔らかなものになり、熱気を含んでいた風が熱を手放し少しひやりとしたものになる。 あの嫌で嫌で仕方なかった夏が形を潜めていくのが少し寂しかった。季節は少しずつ冬えと移ろってゆく。 自然とゆるくつないがれた手からは彼の温かい体温が伝わってきて、心地よい。 ふわりと柔い風が吹けば、やさしい秋の匂いがして、わたしの心臓はまたじわりじわりと暖かい幸せに満たされていく。 だいすきだよと心の中で呟けば、 彼はまたちゃん、すいとーよって勝手にわたしの心を見透かして意地悪そうに笑った。 |