ちらほら花を咲かせ始めた桜の木の下でぼんやりしていた。


ちゃん」
「にお?」
「何しとるん?」
「ぼんやりしてた」



仁王は私の目の前にしゃがむと、よくわからない表情でわらった。 そしておもむろに手を伸ばしてきて、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。 その意味がわからなくて、私は顔をくしゃりと歪める。


「なに」
「よしよししただけ」
「意味、わかんない」
「わからんで、ええよ」



また、仁王がよくわからない表情でわらった。 仁王がその表情でわらうと、心臓がちくちくするから、仁王のその表情は好きじゃない。 なんとなくいやだなって思うし、いつもみたいに笑ってほしいなって思う。


「にお、」
「ん?」
「よしよし、よしよし」



さっき仁王がしてきたのよりももっとやさしく、猫や犬にするみたいにそっとそっとその銀色を撫でた。 すると、仁王はそれこそ猫や犬みたいに目を細めてく気持ちよさそうにしてくれた。 目を細めた仁王の顔は、さっきまでのいやな感じがするものじゃなかったから、ほっとした。


ちゃん、」
「なに」
「桜、はよ咲くとええのう」
「うん」



仁王は私の横に来て、ぴったりと肩をくっつけた。 木の枝の隙間から降り注ぐやわらかい太陽と、くっついた仁王の体温がとても心地よくて、私は目を閉じた。 仁王の肩にもたれるようにすれば、仁王はさっきの私みたいにやさしくやさしく頭を撫でてくれた。


「にお、桜が満開になったら、一緒に見に行こう」
「ん。約束ぜよ」
「やくそく」



ぼんやりとした意識の中で、私は目を閉じたままそっと仁王の手を握った。