ある、雨が降っていた日の夜中に、誰かが家のチャイムを鳴らした。荒々しいそれはどことなく俺に嫌な予感を与えてくるから、俺は思い過ごしですようにと唱えながら扉を開けた。そこには一年くらい前から行方知らずになっていた大切な人が、びしょ濡れになって突っ立ていた。


・・・なの?」
「かん、ちゃん・・たす、け、て・・・」
「・・・とりあえず、中入って」


真っ青な顔のは、震える体で小さな小さな命抱いて、少ない荷物を持っていた。それを見て粗方想像がついた俺は、震える体から小さな命を抱き上げて、今にも折れてしまいそうなその腕をそっと引いた。


「丁度お風呂沸いてるから入って。」
「・・・・・ごめ、ん」
「謝罪はいらない。、自分の着替えは?」
「・・・ない」
「そう。なら俺の貸すから、早くお風呂はいる」


俺はお風呂場にを押し込むと、手に抱いている小さなその子を素早く着替えさせて暖めてやる。幸い、その子はあまり濡れてなく、何事もなく今はすやすやと眠っていた。俺はその子の寝顔をちらりと見て、お風呂に入っているであろうの元に向かった。








俺は遠慮もノックもなしにがらりと風呂場に足を踏み入れた。 はこれと言って焦ることも恥じることもしないで、少し怯えるような目で俺を見上げてた。俺はすんごく溜息を吐き出したくなったけど、なんとか喉の奥に押し込んで、極力優しい音での名前を呼んだ。


、」
「・・・あの、子、・・・は?」
「今は眠ってるよ」
「・・・そっか」
「・・・・ねえ、。」
「・・・・・・・」
「おかえり」


それまで虚ろな表情だったが、弾かれたように俺を見た。その目は大きく開かれて、確実に細くなった肩が小さく震えた。驚愕とも唖然とも言いがたいその表情は、ゆっくりとくしゃくしゃにゆがめられた。俺はやっと、昔と何一つ変っていない泣き虫で寂しがりやで我慢ばかりするを見て、小さくちいさく溜息を吐いた。


「かん、ちゃん・・、かんちゃん、・・・ごめんね、ごめ、んね・・・」
「うん。怒ってないよ。心配はしたけどね」
「ごめんっ、ごめんなさ、い・・・かんちゃん、かんちゃんっ・・」
「うん。」


ぼろぼろと大粒の涙が嗚咽と一緒にの中から溢れ出して行く。それはお風呂のお湯の上にぽたりぽたりと落ちて、すっと溶け込んでいく。俺は小さな子供のようにわんわんと泣くその身体を、優しくやさしく捕まえた。