三郎は何してるかなー、と思いふらりと立ち上がった。とは言うものの、三郎がどこにいるか全然見当がつかないので、私は適当に学園内を散策し始めた。 ふらりふらりといろんなところを捜してみたが、いっこうに三郎は見つからなかった。 もう探すところがない、と諦めようとしたところでいきなりぐいっと腕を引かれた。


「おわっ・・・って、三郎!」
「お前は何学園内を徘徊してるんだ?」
「三郎捜してたんだよ」
「私を、か?」
「そう。暇なら一緒に居ようと思って」


へへへ、と笑えば三郎は私の腕を掴んだままポカンとした。そして顔を俯けてしまった。突然俯いた三郎を不思議に思い、私が顔を覗き込もうとしたらさっきと同じようにいきなり手を引かれた。そしてそのまま三郎がどこかに歩き出した。


「えっ、ちょちょちょ!三郎?」
「うるさい。いいからついてこい」
「は、はいっ」


私はずるずると三郎に引きずられるようにどこかへ向かった。その目的地はどうやら三郎の自室だったようで、到着するなり私はぽいっと部屋に投げ込まれた。


「ちょ、三郎扱い酷い」
「気のせいだ」
「いやいや・・・」


さっき三郎のせいで打ったお尻を撫でながら、私は立ったまま部屋の中をきょろきょろと見回した。 そんな私に三郎が適当に座れ、と言ってきた。私は言われた通りにその場に座ると、三郎が何かを持って私の目の前に座ってきた。


「なに、それ?」
「私秘蔵の、お菓子」
「お菓子?」
「そ。一緒に食べないか?」
「いいの?」
「ああ。でもみんなには秘密だぞ」


そう言うと三郎はニッと悪そうな笑顔で、そっと私の口元に人差し指をあてた。私は急いでこくこくと首を縦に振った。三郎はそれに満足したよう笑うと、そっと私の口元から指を放した。そして、三郎は秘蔵のお菓子が入った袋をごそごそ漁りだした。


は何か食べたいものはあるか?」
「んー何があるの?」
「金平糖、饅頭、羊羹など、色々あるぞ」
「じゃあ、金平糖」


私がそう言うと、三郎は袋の中から小さな小袋を取り出して、そっと三郎自身の掌に乗せた。ころりころりと転がった色とりどりの綺麗な粒を、私はじっと見つめた。すると三郎はそんな私を見てくすくすと笑った。


「ん?なに笑ってるの?」
「いや、何でもない」
「そう?・・・ねえ三郎、食べていい?」
「ああ。ほら、あー」


三郎は掌の上に転がる金平糖を一粒摘むと、あーと私の口元に持ってきた。私は一瞬でその意味を理解した。


「い、いや、自分で食べれるよ?」
「だーめ。ほら、あー」
「うっ・・・」
「要らないのか?」
「あ、あー・・・」


仕方なく三郎の言うように口を開くと、その中にポイッと甘い粒が放り込まれた。私はその甘さを堪能しながら、あーんをされた恥ずかしさに顔を俯けた。すると三郎が私を呼ぶ。



「な、なに」
「ほら、まだ金平糖残ってるぞ」
「た、食べ、けど・・・」
「なら、ほら。あー」


顔を俯けたまま喋っていると、上から三郎の意地悪な声が降ってきた。それが悔しくて、私はバッと顔を上げると、三郎の掌に乗っていた金平糖をパクッと口に含んでやった。


「ん!」
「うわ、!?」


私は三郎の上の金平糖を全部食べると、ついでにその掌をべろりとひと舐めしてやった。そして、してやったり!という目で三郎を見れば、三郎は顔を赤く染めて固まっていた。


「さ、さぶろ・・・?」
「・・・っ、お前、やりすぎ」
「ご、ごめんっ!ごめんなさい!」


私が三郎の名前を呼べば、三郎はハッとしたように急いで口元を手で覆った。私はいつもと違う三郎にギョッとして、思わず焦って謝ってしまった。すると三郎はため息をつくと、いきなり私を抱きしめてそのまま押し倒した。私は何がなんだかよく分らなくて、三郎の背中をとんとん叩いてみけど、変化はない。


「さ、三郎?お、怒った?」
、」
「な、に・・・?」
「あんまり私をからかうなよ」
「さ、ぶろ」
「      」


今にも鼻が触れそうな三郎との距離に、私の心臓は煩く騒ぎ出す。三郎の下から逃げようにも、三郎の目に射抜かれた私は動くことさえ許されなかった。動かない私に、三郎はそっと耳元に口を寄せちいさくちいさく囁いて酷く艶やかに笑った。








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