まだ兵助はいるかな?いると、いいな。 そう思うが早いか、私は急いで自分の部屋を飛び出して兵助の部屋に向かった。 「兵助いる?」 「あ、。なんとなく来ると思ってたんだ。」 慌てて兵助の部屋の戸を開けた私に、兵助はふわりと笑って迎えてくれた。 私は何もかもお見通し、というか先を読まれている兵助に、これは参ったと苦笑した。 「ほら、早く準備しておいで。忍装束は目立つぞ」 「え、あ、はい!光速で準備するから待ってて!」 「そんなに急がなくても、俺はを置いて行ったりはしないよ」 兵助は困ったように笑って、ゆっくりでいいから準備できたら門に集合な。と私の頭を撫でた。 私は兵助の優しさに感謝しながら、急いで行く!と全速力で兵助の部屋を後にした。 一瞬、兵助が頭を撫でてくれたときに、心臓がきゅっと苦しくなった気がしたけど、 今は急いで準備をしなければ、という気持ちでいっぱいだった。 「兵助、お待たせ!」 「あれほど急がなくっていいって言ったのに」 「だって、なんか、すっごくわくわくしちゃってさ」 「ふふ、なんだよそれ」 門に行くと、兵助がもう出門票にサインをしてくれていて、急いで来た私に苦笑した。 私はそんな兵助にお礼を言いながら、自分の浮かれっぷりに苦笑してしまった。 そして、私たちは小松田さんに行ってきますを言って、一緒に学園を出た。 「俺、豆腐屋に寄りたいんだけどいい?」 「うん。いいよ」 「ありがとう。」 「いえいえ。兵助は本当に豆腐好きだね」 「そう、かもな?」 「そうなんだよ」 私たちは町に着くと、その兵助が寄りたいと言う豆腐屋に向かった。 そこは兵助曰くすごくおいしいと評判が良いらしくて、一度食べてみたかったんだと頬を染めながら語ってくれた。 そんな兵助が、私は恋する乙女にしか見えなかったが、あえてそれは黙っておいた。 「さて、念願の豆腐も手に入ったし、はどこか寄りたいとこある?」 「んー、私は別にないかな」 「じゃあ、町を見て回ろう。それでどこかの茶屋で一服しよう」 「それはいいね」 私は今さっき買った豆腐片手に上機嫌な兵助と一緒に、町を回ることになった。 町は色々な露店が出ていて、とても賑わっている。それはなんだか祭りの雰囲気に似ている気がした。 ひとつひとつ露店を回っているときに、私はふと足を止めた。 「?」 「これ、すごく綺麗」 「簪?」 「うん。でも簪なんてさす時なんて無しなー・・・」 兵助はふっと私の顔を覗き込んできて、そのままじっと私の顔を見てきた。その視線があまりにも強くて、私は内心すごくあわあわとしてしまう。私はとうとう兵助の視線に耐え切れなくて、兵助?と呼びかけた。 すると兵助は何かに納得したように、私から視線を外した。私はよく分らない兵助の行動に疑問を感じながら、さっき目に留まった簪に視線を向けた。簪には青い綺麗なガラス玉があしらわれていて、 それは太陽の光を受けてつるりと輝いている。 「買わないのか?」 「んー、やっぱいいよ」 「・・・・そっか」 「兵助?」 「なんでもない。じゃあそろそろ茶屋に行こうか」 「そうだね」 私はちょっと惜しいことをしたな、と思いながら、兵助と一緒に茶屋へ向かった。 そして団子とお茶で一服していたら、いつの間にか日が傾きだしてることに気が付いた。 ああ、もう休日は終わってしまうのか。と少し寂しく感じつつ、それでも今日一日休みをすごく満喫したなと思った。 隣で茶を飲む兵助に視線を移せば、兵助もこちらを見ていてバチリと視線が絡んだ。 その瞬間に、さっきのことを思い出して少し恥ずかしくなった。 「?」 「あ、えっと・・・今日、すごく楽しかったなーと思って」 「そうだな。すごく俺も楽しかった」 「豆腐も買えたしね」 「それもあるけど、と一緒にいれたし」 「え?」 「なんでもないよ。さ、そろそろ帰ろうか」 「あ、うん」 私は兵助の言葉を不思議に思いながら、残りのお茶を飲み干した。 学園に着くと、ちょうど夕飯ぐらいの時間で門を潜ればおいしそうな匂いが備考をくすぐった。 私は夕飯を食べるために、服を着替えに行こうとしたら、突然くいっと兵助に袖を引っ張られた。 どうしたものかと思って後ろを振り向こうとすれば、兵助がこれ持って前向いてて、と言った。私は何がなんだか分らずに、兵助に手渡されたお豆腐を持たされて何故か髪を弄られていた。 「兵助?私の髪に何かついてる?」 「違う。ちょっと、がまん」 「え、え?兵助?」 「がーまーん」 兵助は手早く私の髪をまとめあげていく。しかも櫛も使わずに。 私は鏡も何も持ってないから今の自分の状態が全くわからず、ただ兵助に言われるままにがまんをしていた。 しばらくしたら、兵助にこっち向いて。と振り向かされた。そのときに、私は兵助の手の中のものに目を奪われる。 「あ、その簪、・・・なんで?」 「に、似合う気がしたから。こっそり買っておいた」 「え、何時の間に?」 「秘密。はい、じっとして」 兵助は私を抱きしめるような形で、そっと纏め上げた髪にそれをさしてくれた。 そして納得がいったかと思えば、私を学園内の池まで連れてきた。 「ほら、見てごらん」 「・・・・べつ、じん」 「はは、はだろ?」 「そ、そうなんだけど・・・」 「簪、やっぱりに似合ってる」 「あ、ありがとう」 「いえいえ。どういたしまして」 兵助はそっと私の手を握って、柔らかく微笑んでくれた。その自然な動作があまりにも自然すぎて、 私はじわっと顔が熱くなるのを感じた。 . |