「ただいまー」
「ご飯まだ?」
「いや、今帰ってきた瞬間ですけど」
「うん、早く作って」



・・・・私の彼氏様は、何ともドエスです。誰が何と言おうとドエスです。いや、もう、鬼畜レベルです。やーっと長く過酷なバイトが終わって、やっとの思いで帰宅して玄関のドアを開けた瞬間にこの仕打ちです。私が何をしたというんだ!!ご飯ぐらい本当は自分で出来るくせに!!この似非王子様め!黙ってたらすっごいカッコいいくせに!と心中不満とその他もろもろを吐きつつ部屋着に着替えました。その間に、あのお方はソファーでゆったりとくつろいでおります。何のイジメですか、これ。


「・・・今日のご飯何がいい?あ、ラーメン?了解。なら3分弱で」
「ちょっと、ふざけないでよ。この俺がそんなもの食べるとでも?」
「・・・・・・スミマセンデシタ」



本当は普通にラーメンとか食べるくせに!この間私がこっそり買っておいた、ちょっとリッチなラーメン黙って食べたくせに!!と叫びたいところですが、キッと冷たい視線を浴びせられているので、これも心の隅の隅のさらにすみっこのほうで吐いておきます。渋々冷蔵庫の中を漁ってみたら、簡単なものは作れるぐらいには食材がありました。


「じゃあ、何が食べたいの」
「早く作れて、おいしくて、健康に良いもの」
「・・・・・オムライスは」
「うーん、まあ、ギリギリ合格かな」



ギリギリ合格ってどういうことですか。でも合格が出ただけましである。たかがご飯一食にそんだけ課題出すなら、せめて冷蔵庫の中を補充してから言ってくださいよ。と、また不満を心中で吐きながら、手早く野菜を細かく切って、野菜たっぷりチキンライスを作りました。おお!私すごいぞ!なんていい彼女なんだ!不満を一切口に出さずにこんなおいしそうなご飯を作っているなんてすごい!本当にすごすぎるぞ!・・・若干寂しくなってきたところで、後は外装である卵を焼くだけです。


「ちょっと貸して」
「え?え?あの、精市サン?」



今までテレビと私の料理風景を適当に見てた精市が、ふわりと私の手からフライパンと溶き卵を奪っていきました。そして、目にも驚く速さとテクニックで、あっという間にふんわりとろとろ卵を作って、それをあたしの不満と愛情(多分)が篭ったチキンライスに被せて盛り付けました。その一連の流れに、私はただポカンと唖然とするだけでした。なんなんだ、こいつは!!


「さ、固まってないで食べるよ。」
「え、なに今の。え?神?」
「俺を誰だと思ってるの?神の子だよ?」



そういってとっても意地悪そうな顔で、当たり前だといわんばかりの精市にまた唖然とする反面、その表情のカッコよさに目を奪われたのは、絶対口が裂けてもいえません。ええ、言えませんとも。そんなこんなで、二人で食卓について、ちゃんといただきますをして、いざきらきら輝く黄金のオムライスに!


「・・・う、うまぁー!」
「ちょっと、口に物が入ってるときに喋らないでよ」
「・・・はい、すいません。でもとっても美味しゅうございます」



精市の作った卵は絶品で、私の作ったチキンライスと良い感じの塩梅で、ほんとこれどこぞのレストランで食べる高級オムライス!って感じで、今日帰宅してからの不満あれこれを帳消しにする程の美味しさでした。そんなこんなでもぐもぐ食べてたら、精市からごちそうさまでした。って聞こえて、前を見てみたら、精市のお皿は綺麗に空でした。素早い!というか、ほんとにお腹へってたのね。


「ゆっくりたべていいよ」
「ん」
「おいしかったよ。ありがとう」
「・・・ん」



不意にバチリと目が合ったと思ったら、さっきとは全く違う優しい声と表情で、そんなことを言われたから すごく驚いてぎょっとしてしまいました。危うくスプーン落とすとこだった!しかも、珍しくふにゃりとはにかんだ様に笑ってお礼なんか言うから、柄にも無く心臓がうるさくて顔がほんのり熱くて。こういうまれに見せる優しいところがたまらなく好きで好きで好きなんだよ!!と、これも口には出さずに心中で思いっきり叫んでおきました。