ぽちゃん、天井から水蒸気が水滴となったものが、私の前に落ちてきた。 その水滴を見て、此処はお風呂場だから、湿度はきっと100パーセントだ。 とか無意味に思ってみるも、理系が点でダメな私にはどんなとき湿度100パーセントで、どうやって湿度を求めるのかすらよく分からない。 「ねえ、くくちへいすけくん。」 「ん、何?」 「お風呂場の湿度は100パーセントですか?」 「・・・・・は?」 私は極力兵助の顔を見るようにしながら、浴槽の淵に身を乗り出すようにして訊ねた。 兵助は私と違ってお勉強はお得意だ。おまけに顔と運動神経もいい。 そんな兵助はわしゃわしゃと頭を洗う格好で、ぴたりと止まっている。 その格好が面白くて、必死で笑いを堪えた。(ここで笑ったら怒られる!) 「・・・ねえ、どうなんですか、くくちへいすけくん。」 「そりゃー、100パーセントだろ。」 「そうなんですか。1つお勉強になりました。」 ふむふむ、と頷きながら浴槽の淵から離れる。 結局、お風呂は湿度100パーセント、という情報しか理解はしていないが、少し勉強した気がした。 そんな今の私には、湿度のパーセントがあれで、こうで、ということにはもう興味はない。 とにかく、お風呂場は湿度100パーセント、ということがわかっただけで、いいのだ。 シャワー出して、って言う兵助の声を聞いて私はお湯の出る蛇口を捻った。 細かい水の粒たちが勢いよく兵助の頭上に降り注ぐ。 「いきなりどうした?」 「たまたま聞いてみたくなっただけだよ。」 「あっそ。」 「ねえ、くくちへいすけくん。」 「普通な呼び方をしてください。」 シャワーから出る小さな水滴に兵助の髪に絡んだ泡達はどんどん消えてゆく。 それを見ていたと思ったら、目を瞑っている兵助の顔をガン見していた。 幸い、兵助は目を瞑っているのでこのことには気付いていない、はず。 それと、兵助のまつげの長さに少し、嫉妬したのは秘密だ。 「ねえ、兵助。何で一緒にお風呂入ってるの」 「が一緒に入るって言ったからです。」 「・・・兵助のえっちー」 「・・・・なんでそうなる」 泡を洗い流した兵助の髪は、私の着色や脱色で痛んだ髪とか比べ物にしたくもないくらいとても綺麗だった。 シャワーを止め、呆れた顔で兵助がこっちを向く。 生憎、今日の湯船には入浴剤は入ってないので、透明のお湯だ。 素っ裸なことに、今更恥ずかしくなってきた私は、兵助に背中を向けた。 「何今更恥ずかしがってんだよ」 「うーるーさーいー!」 「あ、昨日の夜も思ったんだけど、」 「あーあーあーあーあーあーあーあー」 「ちょっと胸大きくなった?」 「あーあー・・・は!?」 兵助が予想外の発言に目を見開いて、顔だけ振り向かせる。 兵助はニコリ、と効果音がつきそうなくらいの笑みを浮かべていた。 そしてじりじりと浴槽に近づいてくる。 「ねえ、、」 「いやです。」 「もう一回確かめたいんだけど」 「確かめなくていいです!」 「折角だし、湿度100パーセントの中で、ヤろっか?」 「何が折角なんだ!!それに湿度とか関係ない!」 「湿度高いと喉に負担がかからないからイイ声出るぞ?」 「そんなことどうでもいいから!!そのまえに張り切るな!」 「だって、なかなかこんなチャンスないし、・・・な?」 兵助がニコニコと素敵な笑顔で見てくる。 ここで負けるわけには!と、なけなしの理性を奮い立たせるが、湯船の浸かり過ぎでのぼせたのか、頭がくらくらして、思考がいまいち回らない。 小さくなりつつある理性で保たれた頭の中で、何で湿度の事なんか聞いたんだろう、と私の好奇心を責めたが、問題点はそこではないと気付いた。 よくよく思い返してみれば一緒にお風呂に入る、と言った私自身にたどり着いたので、思い返すのをやめた。 それとほぼ同時に、思い出した事を思考の外に投げ捨てる。 もう1度、チラリと兵助を見れば、意地悪そうな笑顔で、じーっと私のほうを見ていた。 パチリ、そんな兵助と視線がぶつかる。 「で、、どうする?ヤる?」 「・・・・・・・・・・しらない」 「じゃ、遠慮無く、いただきます。」 ぐしゃり、 ちっぽけな私の理性が、兵助の言動に容易く潰される音がした。 (きっと今日はお風呂でのぼせちゃったん、だよ!) |