苦しいんだ、悲しいんだ、可笑しい、だよ。ねえ、ねえねえ。


その人を見ると、まるで、まるで、俺の周りだけ酸素が急激に消失してしまったようで、とても息が苦しいんだ。俺はその人を、知らないのに。でも、どんどん息苦しくなって、喉も絞められているようにうまく酸素が取りこめなくて、言葉も上手く発せなくなるんだ。


「兵助」


その人が俺を呼ぶ度に、俺の心臓が震えるんだ。懐かしむんだ。俺は、その声を、知らないのに。でも、俺の心臓は、その声を待ちわびていたとでも言う様に、震えて、震えて、まるでその声を喰らって呼吸しているかのように、歓喜するんだ。


「へい、すけ」


その人は泣いたんだ。俺の、目の前で、透き通った綺麗な涙を、一粒また一粒と零したんだ。俺はその人の涙の意味を、知らないのに。でも、その人から溢れ出す嗚咽に涙に、俺の心臓はじりじりと潰されそうになるんだ。


「へい・・・すけ、へい、・・すけっ、へ、いす・・け」


聞こえてる、ちゃんと聞こえてるよ。ねえ。君は何なんだい。どうしてどうしてどうして、俺をこんなにも、こんなにも、苦しく辛く可笑しくさせるの。ねえ、ねえねえ。君は、君は、君は。











「君は、だ、れ?」


俺の掠れた言葉に、君は絶望したように失望したように死んだように、光の消え失せた虚ろな目で、焦点も合ってないような濁った目で、ただただ俺を見つめていた。いや、違う。俺だけど、俺じゃないなにか、そう、何か、を、ただ君は、俺の中に、見ているんだ。








記憶喪失久々知と、その久々知の中に恋人だった久々知を探す女の子。