「もしもし、?」
「もし、もし、しらいし?」
「おー、そうやでー」
「ん。で、なに?」
「今なにしとん?はよ学校きいやー。もう一週間も休んでるやん」
「無理」


ぴしゃりとは躊躇なく言い切った。
それに「は、なんで?」と返すと「何にもする気がないから」 と危うく聞き逃しそうになるほど小さな声で、そう返ってきた。 ああ、と頭の中でこういう時のの状況を思い浮かべ、 「今から行くから、まっときいや」と勝手に言い付けて、俺は返事も聞かずに通話を終了した。


「謙也、俺ちょお学校抜けるわ」
「は?部活は?」
「あー、多分それまでに帰ってくると思う。じゃ」
「あ、ちょ、白石!こら!」


俺が適当に謙也に抜けることを伝えて、席を立ってすかすかな鞄片手に廊下に出た。 そのまま軽く小走りで廊下を進んでいると、後ろできゃんきゃん謙也がなんか言っとったけど無視した。あー、後でメールしとこ。 そのままのスピードで俺は靴箱で靴を履き替えて、自分のチャリをとっての家を真っ直ぐに目指す。 けど、その途中で視界に入ってきたスーパーに、色々買うためにちょっと寄り道した。






ー、」
「・・・・・・」


ピンポンピンポンピンポン3回ぐらい連続でインターホン押したけどは出てこんし、鍵もかかったままやったから、前にが預けてくれた合鍵で鍵を開けた。 あ、何か新婚な気分や。って、俺何考えてんねん。 がちゃり、重々しく開いた扉の先はこの前来たときとほとんど変りはなかった。 おじゃまします、と挨拶して俺はが寝てるであろう部屋に向かった。ちなみに、は1人暮らしなので、両親はここにはいない。


、起きいー。ー?ちゃーん?」
「んー、・・・・」


あ、こらあかんわ、というぐらいには爆睡。 しかもTシャツとジャージというまったく学校に行く気ゼロの格好で。 はあ、と俺は軽くため息をついてキッチンに向かった。 この家、というよりの家のキッチンはまったく使われた痕跡はない。 ぴかぴかの新品みたいだった。 そのことにまた小さくため息をついて、さっき買ってきたスーパーの袋の中身を取り出した。






ー、ご飯やでー。起きい」
「んー・・・?し、らいし?あれ、学校は?」
のために抜けてきた」
「え、・・・。ごめんなさい」
「いや、別にええよ」


ほいとお盆に乗せた俺の手作り完璧絶頂ランチをみて、の顔は誰が見てもわかるぐらいに緩んだ。 まあ、サラダと唐揚げとチーズリゾットと市販のみかんゼリーやけどな。 はさっきまで丸まっていた布団をぺいっと捨てて、部屋の中心に置かれている机の側に行儀よく座った。それはそれは餌を目の前にした賢い犬みたいに。


「ほら、どーぞ」
「えへへー、白石の作るご飯すきー」
「そらどーも」


はいただきます、とちゃんと手を合わせてから食べ始めた。 ときどき、んーうまーとか言いながら、幸せそうに頬張る姿に、自然と俺の顔も緩む。 はたまに、無気力になにをするわけでもなく家に篭ることがある。これを無気力化、と俺は呼んでいる。まあ、そうなるたびに俺が面倒を見に行くんやけど。 って、俺はのオカンか。


、今回もどーせ無気力化やろ?」
「んー、たぶん。迷惑かけて、ごめんね」
「んや、別にええけど。何か俺、のオカンみたいやな」
「はは、それは言えてる。はい、あーん」


ずいっといきなり差し出された、スプーンに乗ったチーズリゾットを、俺は口に入れた。 あ、めっちゃうまいやん、と自画自賛しつつ、のほっぺに付いたご飯を取ってあげた。 んー、本間はオカンやなくて恋人とか、あわよくば夫・・・ていうか、この立場なら嫁さんのほうが似あっとるのが事実なんやけど・・・。


「・・・まあ、しゃーないか」
「ん?なにが?」
「いや、なんでもない。あ、これ食べたら学校いくで」
「えー、いやー」
「嫌やない、行くで」
「ちぇー、仕方ないなー」
「なにがやねん」


と軽く俺が突っ込みを入れたら、はきゃっきゃと笑った。 その笑顔を見てると、今のオカンポジションのままでもいいかなーって、ほんの少しだけ思えた。