久しぶりに、風丸を見た。久しぶりに見た風丸は、ちょっと変なユニホームを来て、珍しく髪を下ろしていた。 みんなはそんな風丸と、その後ろにいる黒いマント組に唖然としてた。 私もみんなと同じ様に驚くわけでもなく、混乱するわけでもなく、ぼーっと風丸ただ一人を見ていた。 髪、あんなに長かったけ?声、あんな刺々しかったけ?目、あんなに釣りあがってたっけ? 私の目に映る風丸は、私の中の風丸とは少しずつ違っていた。





円堂たちは、ダークエンペラーとか言う風丸率いるチームと戦うことになった。 黒マント組は、みんな知っている顔だった。でも、そんなことはどうでもよくて、今は風丸だけが私の思考を独り占めしていた。 本当は今すぐ側に行って、抱きしめたい。抱きしめて、忘れかけた温度を知りたい。 言葉は、わかんない。なんて言えばわからないから、いらない。ただ、触れるだけで、それだけでよかった。 でも私の足は地面に縫い付けられて、動くことは出来なかった。声も出なかった。「かぜまる」その一言さえ、言えなかった。 だから、動くことのできる眼球で、必死に風丸の姿を追いかけた。





試合は凄まじい戦いだった。どちらも、みんな本気だった。誰かの叫び声がグラウンドに響き渡り、誰かの技が発動する。それでも私は風丸だけを、見続けた。シュートが入ろうが、パスをカットされようが、誰かが悲痛そうに叫ぼうが、そんなの関係なかった。試合中の風丸は、やっぱり私の知ってる風丸じゃなかった。ポジションだって違った。それに、知らない技も使ってた。誰?なんて、変な疑問が頭の中に浮かんだ。でも、円堂が向ける言葉に反応する風丸は、私の知ってる風丸だった。だから、やっぱりあの風丸は、私の知ってる風丸だって思った。





試合の後半、円堂が咆哮をあげたと思ったらグラウンドが光に包まれた。円堂を中心に。突然の明るい光に、目が眩んだ。でも、必死に目を細めて風丸を見ていた。そしたら、風丸の首に引っかかってたエイリア石がパリンと綺麗に粉々に、砕けた。そして、風丸が私の知ってる顔で、知ってる目で笑った。円堂に、向かって、何かを言いながら。私はその光景に、目を見開いた。そして、突然目の前がじわりと滲んで、きゅーっと心臓が痛くなった。





私は、悔しかった。自分の無力さが、自分の非力が、嫌でいやでたまらなかった。なのに、今、それを痛感させられた。円堂によって。そしてそれと同時に、円堂がすごく羨ましく思った。私に出来ないこと、風丸を元に戻してしまう、そんな円堂が妬ましいぐらい羨ましかった。本当は、誰よりも先に風丸に声をかけたかった。なにしてるの?って、声をかけたかった。でも、それが怖かった。マントを脱いで笑った風丸は、私の知らない風丸だったから。そして、円堂みたいに拒絶されるのが怖かった。バカにされるのが怖かった。離れていってしまうのが、怖かった。だから、私は立ち尽くして、目で追うだけで、でも円堂は違って、正々堂々と同じフィールド内で戦って、言葉を投げ掛けて、そして彼を、風丸を、目覚めさせた。エイリア石から救い出した。





私は、無我夢中で泣いた。泣き崩れた。もう風丸も円堂も、試合も仲間も何もかも見れなかった。両手で顔を覆って、独りで塞ぎこむように泣いた。たくさんの思いが、ぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまったから。


いつのまにか、先ほどまでの曇天は眩しいぐらいの快晴になっていた。 でも、泣き続ける私の心は真っ暗で土砂降りの雨だった。