血のこびり付いた刀が重い。少し息が乱れている。 口元の布を下げて、外の空気を吸い込んだ。 が、それは濃い鉄の匂いが満ちた空気で、逆に気持ちが悪くなった。 俺は動くことも我慢することも出来なくて、死体の上に遠慮なく嘔吐した。 死体から溢れ出す赤黒い液体と俺の吐瀉物が混ざり合って、俺の不快感をさらに煽る。 うっ、ともう一回胃のものが出そうになったところで、兵助、と聞き慣れた声が耳に入ってきた。


「兵助?うわ、なにこれきたな」
「・・・、・・
「兵助、吐いちゃったの?ダメだよ」
「・・・ごめん」



力なく謝ると、は困ったように笑った。 まあ、顔の半分ぐらいを闇色の布が覆っているから、よく分からないけど。 は懐から手ぬぐいを出して、俺の口を拭いてくれた。 少し恥ずかしかったけど、今は全身が重くてだるい。抵抗する力はなかった。


「よし、任務完了。帰ろう」
「なんで、そんなに元気なんだよ・・」
「まあ、慣れ、かなー?」



またが笑った。今度はカラカラと渇いた笑い。 それがなんだか痛々しくて、俺はを抱きしめた。 俺との体が動いたときに、この衛生上最悪な空気も動いて、また吐きそうになったけど我慢した。


「慣れ、なんて言うな」
「でも、これは慣れるしかないよ?」
「・・・狂うぞ」
「兵助がいるから大丈夫だよ」



はは、ってまたが笑った。今のはどこか楽しそうな笑い声だった、気がした。 なんだかの良いように騙されている気がしたから、ぎゅっと腕に力を込めた。 そしたら、とりあえず帰ろうよと言われた。たしかに、そうだよな。うん、気持ち悪い。


「じゃあ、早く帰ろ!」
「うん。・・・あ、吐く」
「・・・・え?」
「うえええええええ」
「・・・・へいすけええええええええ!!!」