「、誕生日おめでとう」 「え・・・あ、ありが」 「だから結婚しようか」 「だまれ」 突然何かと思えばこれか、こいつ。今一瞬嬉しいと思った時間を返せ。そして今すぐどこかへ消えろ。 私が(一之瀬に対して)ものすごく嫌な顔をしたら、こいつはにこにこ笑いながら、時間は返せないし、俺はまだまだのそばにいたいな。とか言い出した。おま、勝手に人の心を読むな。 「・・・一之瀬って黙ってればかっこいいのに」 「ん?俺はいつでもかっこいいよ」 いつものおきまりポーズでウインクを飛ばしてきた。それ、やめろ。ついでにナルシーするのもやめろ。ほんと、残念だな。かっこいいのに、顔は。顔、は。 何か残念すぎて、疲れと呆れのこもった溜め息を吐き出した。と言うよりは、勝手に出た。 「でもさ、」 「な、なに」 「こんな俺でも、」 いきなり真剣な声音になって、表情も真面目な一之瀬が私の手をぎゅと握って、私たちの間にあった少しの距離を縮める。それに反応して私の心臓はどきり、どきりと変に鳴り出した。その音がやけにうるさくて、私は目を瞑った。(本当は、どこを見ていいかわからないから、だけど。) 「世界で一番、誰よりもが好きだよ」 「・・・っ、」 私は一之瀬の一言が恥ずかしくて恥ずかしくて、顔が真っ赤になるのがさらに恥ずかしくて、勢いよく一之瀬の胸に顔を埋めた。一之瀬は私の突進も軽々と受け止めて、優しく抱きしめてくれた。前言撤回、一之瀬はかっこいいです。一部省いたら、だけど。 「ありがとう、だいすき」 すっごく小さな声で言えば、照れたような声で一之瀬がありがとうって言った。 目の前にある一之瀬の服から洗剤とお日様の匂いがして、いつもより少し早い心音が聞こえた。 ![]() |