ザーザーと煩い雨音に、朝早くから起こされた。 ガラリと戸を開けて、開けた視界に入ったのは雨と君。 ぼんやりと庭に出て別に何をするわけでもなく突っ立てる君は、 降り注ぐ雨を受け止めているように見えた。 久々知、どうしたのと、声をかけようとして、すぐにやめた。 それは、君の目にちっとも光がないってことに、気がついたから。 ああ、確か昨日は任務だったな、と遅れて思い出した自分が嫌になった。





きっと昨日、君は幾度目かになる人殺しをしたのでしょう。 そしてその変わりようのない事実を必死に受け止めているのでしょう。 受け止めて、受け止めて、何度も、何度も、悔いて、詫びてを、繰り返して。 そして、自分を責めて、罵って、蔑んで、最後には、自分の中で自分自身を殺して。 でも君は何もなかったように、笑い、毎日を過ごすのでしょう。 全部、ぜんぶ、自分の中に片付けて、苦しんで、それでも自分で処理して。 君は、平然と嘘を演じながら、生きているのでしょう。





一度だけ、聞いた君の弱音。「俺は、こわいんだ」 小さな震える声で君が吐き出した、本音。 それは些細な雑音にさえ飲み込まれてしまうほどに小さかった。 あの時、私は何も言えなくて、聞こえなかったふりをしたんだ。 もしも、あの時、ちゃんと君に、私も同じだよって言えてたら、 君は少しでも救われていたのでしょうか? こんなときに、大丈夫だよって近寄ることが出来たのでしょうか? こわいよねって抱きしめることが出来たのでしょうか? ああ、あの時の自分が酷く憎い。





きらりきらり、君の頬の雨粒が光って、顎を伝い雨に溶けた。 君はその場でうずくまって掠れた声で、無意味な謝罪を繰り返す。 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、 その姿が、酷く痛々しくて私は自分の唇をぎゅっと噛んだ。 いつの間にか私の頬にも雨粒が伝っていて、口内でしょっぱい鉄の味がした。