一陣の風が吹き抜けて、ぐらりと体が傾いた。次の瞬間には視界いっぱいに見知った町や建物。おまけに体全体に走る胃が浮くような浮遊感。 初めてこんなに風を感じた。走ってるときなんて比じゃないぐらいの風が、私の体を包み込む。 気持ちいい、脳のどこかでそう思った。ゆっくりと目を閉じると、色々な感覚が鋭くなって、さらに風を感じる。 懐かしい、次はそう思った。 記憶はないけど、羊水の中。そこに似てるって本能が教えてくれる。 目を閉じていると思考がだんだんと重たくなってきて、私は静かに眠りについた。 風の羊水に包まれて、ゆっくりと眠る。それはとても素敵なことだと思った。 意識が暗転する少し前に、きっと勘違いだと思うけど、風が泣いていた気がした。




緩やかな自殺


(、いかないで、)