真っ白な、造られた空間。
壁も、床も、ベットも、シーツも、食器も、全て全て真っ白。
そんな完璧な部屋に、私と彼。たった2人だけの空間。
気が、狂いそうになる。







「・・・・なに、兵助?」
「そこにいる?ちゃんといる?
「うん、ちゃんといるよ・・・・」


目の前に居る兵助は、白くて細い。今にも崩れそうだ。
私の服や腕を、力なく握る兵助の手。その手は私より真っ白で、細い。
力強く握ればポキッ、なんて快音をたてて折れそうである。
腕には沢山透明なチューブが絡み付いてて、その1つ1つから液体が通っている。
目は、前みたいに透き通った黒じゃなくて、光が無い真っ黒。
なんだか壊れそうだな、なんて温度の無い目で下手な笑顔を貼り付けた。



いつからか、兵助は病気になっていた。
それは傷のように目に見えるほど明確なものではなく、
風邪のようにすぐに治るほど単純なものではない。
兵助の病気は、目には見えない心にできた病らしい。
最初は眠れない、って言う一言からはじまって、次は食事を余り摂らなくなった。
その次は感情が不安定になって、その次、その次・・・と症状は日に日に増えていった。
その度に私は「大丈夫だよ」って兵助を止めて、抑えて、鎮めてを繰り返した。







がいれば俺は生きていけるよ。、好きだよ。」
「うん・・・・・知ってるよ。」


がいれば俺は生きてける」何度も何度も兵助はこの言葉を言う。
その言葉は私を縛り付けるものでしかなくて、時々嫌になる。
まるで、私が居なくなれば俺は消えるよ。って言ってるみたいに聞こえた。
病院で兵助の担当についている医者は、私に言った。

「貴方のおかげで、彼は落ち着いているんですよ。」
「貴方は彼があんなになってしまっても傍に居るなんて、優しい方なんですね。」
「これからも彼を、見てあげてください。傍に居てあげてください。」


止めてよ。そんな風に言わないで。何も知らないくせに。
何でそんなこというの?表面上だけで決め付けないでよ。
私の思いや気持ちを、勝手に決め付けないでよ!
我慢して笑った。ありがとうございます。心にも思ってない言葉。
何も、知らないくせに簡単にそんな風に言わないでよ。
汚い私は、愛想笑いの下で自嘲気味に笑ってた。



暖かな太陽が、酷く優しい光を病室に注いだ。
その光が、完璧な白に反射して私を突き刺してるんじゃないかって思った。
少し暖かくなった病室には、静かな寝息が反響していた。
薬のおかげで、兵助は静かに眠りについた。
目の下にできた、色の濃い隈が痛々しかった。
どんな夢を見てるかなんて、私には少しもわからない。
でも、ベットで眠る兵助は元気だった頃に少し似ている気がした。
小さく溜息をついて、消えるぐらいの声量で無意識に呟いていた。

「大好きだよ、へいすけ」



白が、私を嗤った。
そして、君も






白のむこうで笑うのでしょう

(お願いだから・・・・前みたいに、笑ってよっ・・・!!)


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